『野生の思考』クロード・レヴィ=ストロース

クロード・レヴィ=ストロースの『野生の思考』を読んでみた。

本書は、1960年代に始まった構造主義ブームの火付け役とされており、構造主義そのものがただでさえ難しい概念であることに加えて、本書の文章表現は詩的かつ難解で、正直、めちゃくちゃ難しい。僕がこれまで読んできた本の中だと『メディア論』に匹敵する難しさだ。

構造主義は広義には、現代思想から拡張されて、あらゆる現象に対して、その現象に潜在する構造を抽出し、その構造によって現象を理解し、場合によっては制御するための方法論を指す語である。

Wikipediaより引用

要するに、あらゆるものに対して構造を当てはめることで、現象を理解しようとするのが構造主義である。

本書では、野生人がトーテミズムを用いて自然を理解しようとしている点を着眼点とし、人類が物事を理解する際は「野生の思考」を用いて、神話や呪術などの胡散臭い思考法を用いているとしている。

それまでのフランスでは「文明人は”科学的思考”を使えるから優秀で、逆に未開人は”神話”や”呪術”を使うから未熟である」とされていたようだが、レヴィ=ストロースはそれを本書の第一章で否定している。

  • 未開人は徹底的な観察を行い、物事の間にある関係を余すところなく調べ上げようと努めている
  • 分類学は、すぐれた美的価値をもつものである。そして美的感覚が、科学的思考で決定される結果を先取りしていたとしても全くおかしくない
  • 工作面で神話的思索が、思いがけないすばらしい出来栄えを示すことがある。器用人は、もちあわせの道具でなんとかする。1つの計画によって定義されるものではない

僕たちは、科学的思考と同時に、野生の思考も重要視して、物事を考えるべきなのかもしれない。なぜなら科学的思考に頼りすぎると、呪術や神話に基づいた直観が効かなくなり、全体を見渡すことが難しくなるからだ。

  • 知識を集積すればするほど、全体の図式は不明確になる。なぜなら次元の数が多くなり、直観的方法が麻痺してしまうからである
  • 未開人はトーテミズムを用いることで、自然への理解に努めた
  • なんだかんだで西洋文化でもトーテミズムは多用されている。文明社会にも野生の思考に基づくルールが存在する
  • 呪術師にペテンはありえない。呪術理の理論と実際の差は、程度の問題である
  • 宗教は自然法則の人間化であり、呪術は人間行動の自然かである。呪術と宗教は二者択一の両項でもなければ、発展過程の二段階でもない。自然の擬人化と人間の擬自然化は、常に与えられている二つの分力で、その配分だけが変化する。呪術のない宗教もなければ、宗教の種を含まぬ呪術もない

そして本書の終盤では、構造主義と歴史の関連について説明された

  • 文明人が重要視する「歴史」と未開人が重要視する「トーテミズム」には、一種の根本的反感がある。ヨーロッパとアジアの大文明地域に、トーテミズムにつながるような痕跡は存在しない。文明は、自らを歴史によって説明することを選択した
  • 冷たい社会は、自ら作り出した制度によって、社会の安定と連続性に及ぼす影響(歴史)を自動的に消去しようとする。熱い社会は、歴史的生成を自己のうちに取り込んで、それを発展の原動力とする
  • ルソーは、その慧眼で「人間の多様性を研究しようとするなら身近なところを見つめなければならない。人間の一般性を研究しようとするなら遠くを眺めることを知らなければならない。固有性を発見するためには、まず差異の観察から始めなければならない」とした
  • 単なる歴史は、決して存在しない。歴史は、つねに何かのための歴史である。歴史は、偏向性をもつものであり、部分的であることは免れない
  • 歴史学は、対象を分析するためにコード(日付・年号)を用いる。日付のない歴史は、存在しない。日付が歴史のすべてではないが、日付が無ければ歴史は雲散霧消してしまう。そして日付は、その数字自体に意味はなく、ほかの日付との距離を表現することで、はじめて測定可能なものになる

未開人のトーテミズムの文化と、歴史に「日付」という名の構造が存在することを見抜いたレヴィ=ストロースの慧眼は、個人的にかなり衝撃を受けた。物事を理解するのに、構造主義は必要不可欠なのである。そして物事に構造を付与するためには、野生の思考が不可欠だ。

それこそまさに、これから世界を変えると思われる「AI」を深く理解するには、野生の思考が必要不可欠だと言える。なぜならAIは、多くの人々にとって、科学を通り越して「呪術」や「魔法」の領域に突入しているからである。僕たちは、この呪術的かつ魔法の道具を用いるホモ・デウスにならないといけないわけだが、そこで重要になってくるのは、科学的思考ではなく、呪術的思考である。なぜなら多くの人は、AIを科学的に理解するための時間がなく、AIを開発するエンジニアの視点でも、最先端技術を開発していく以上、科学のずっと先にある「呪術」を探究していく必要があるからだ。