『文明の衝突(上)』

サミュエル・ハンチントンの『文明の衝突(上)』を読んでみた。

本書で著者は、世界を「西欧・中国・日本・イスラム・ヒンドゥー・スラブ(東方正教会)・ラテンアメリカ・アフリカ」の8つの文明に分け、冷戦終結後の様々な紛争を、異文明間の衝突と捉えた。たしかにロシア・ウクライナ戦争は、西欧と東方正教会の2つの文明の衝突だと言えるし、ガザ・イスラエル戦争も一般的には(西欧が支援する)イスラエルと(イスラム京都の多い)パレスチナの衝突だと考えられている。

本書は全12章構成で、上巻では第1章から第7章までが収録されている。その中で僕が印象に残っているのは以下のとおりだ。

  • 二十世紀に誕生した政治的イデオロギー(自由主義、社会主義、マルクス主義など)のほとんどが西洋文明から誕生した一方で、西欧から誕生した主要な宗教は一つもない。冷戦が終結し、西欧の力が相対的に低下することで、非西欧文明の宗教が国際政治に大きな影響を与えることになる
  • 東アジアの人々は、自分たちの経済が力強い発展を遂げた理由を「自らの文化にこだわったため」としている。しかしこれはロナルド・ドーアに言わせれば「第二世代の地域主義現象」だそうだ。第一世代の近代化推進者の人々の多くは、十代の頃に外国にわたり、西欧の文化や価値観を深く吸収し、自国に取り入れることに成功する。一方で、第二世代の多くの人は、自国に建設された大学で、自国の言語を用いることで、西欧の文化を学ぼうとする。つまり、以前よりも知識の習得率が希薄であり、結果として地域主義に陥る
  • 日本は「外国文化の移入」と「それらの文化を模倣し、より洗練化させることによる『自国化』」で発展してきた
  • 韓国、シンガポール、タイ、香港などの成長著しい国々では宗教の興隆が見られる
  • 日本は西欧から距離を置くことができても、中国によりアジアに溶け込むのは難しく、そのために自身のアイデンティティを再定義しようとしている
  • 最も重要な孤立国は日本である。日本独特の文化を共有する国はほとんどなく、日本人は移民先の国の文化に同化してしまう。それに加えて、日本文化は高度に排他的で、広く支持される可能性のある宗教やイデオロギーを持たない
  • 社会の文化を根本的に変えることはできない

こうして振り返ってみると、日本がいかに異様な文明を有しているかがわかる。同時に、今一度、外に目を向ける必要があることに気付かされる。