ダグ・スティーブンスの『小売再生――リアル店舗はメディアになる』を読んでみた。
ここ最近、僕のショッピング体験が大きく変わろうとしている。
最近の僕はパスタを常食するのだけれど、パスタは保存期間が比較的長いので、1ヶ月に1回のペースでのまとめ買いで良くなる。この場合、Amazonの定期おトク便を利用することで、Amazonに触ることなく、自動的にパスタが補充されるようになる。同じように、ありとあらゆる食品・日用品は、Amazonを利用した定期おトク便で十分になるので、結果的に、スーパーマーケットには行かなくなるし、それどころか、Amazonの画面を開くことすらなくなる。そしてこれは、おそらく食品・日用品以外の領域でも同じことが言える。
本書では、Amazonが小売業にもたらす破壊的イノベーションと、リアル店舗の可能性について語られている。
Amazonが小売業にもたらすイノベーションは本当に凄まじい。リアル店舗に行かなくとも、ありとあらゆるものが買えるし、Amazonの素晴らしいレコメンドエンジンが、膨大な商品ラインナップの中から、僕たちに最適な商品を紹介してくれる。個人的にはKindleのレコメンドエンジンが最高で、たしかにKindleは、僕がちょうど読みたいと思ってた本をジャストタイミングで紹介してくれるようになっている。
しかしその一方で、たしかにAmazonや優秀なレコメンドエンジンは、ルーティン的なライフスタイルには合致するけれど、新しさを求めたいときには不便である。特にKindleが顕著で、Kindleのレコメンドエンジンは、基本的に僕が読んだことのあるジャンルしか提示してくれない。漫画好きの人に、音楽史の本を紹介することは、基本的にないのである。
そこで、リアル店舗だ。
本屋で言えば、青山ブックセンターや蔦屋書店が典型例だが、リアル店舗であれば、Amazonのレコメンドエンジンとかには関係なく、ショップ店員の裁量で、おもしろそうな本をディスプレイすることができる。つまり、リアル店舗であれば、新しい商品との出会いを演出することが可能になるのだ。
そのため、Amazonの素晴らしいレコメンドエンジンと逆行する形で、ハイセンスなリアル店舗が、頭角を表すようになっている。
そしてオンラインショッピングが当たり前になりつつある現代社会において、小売業のリアル店舗は「モノを売る場所」ではなくなっている現状がある。リアル店舗は、ECにはできない「五感をフル活用した体験を提供すること」が求められる。
本書のタイトル通り、リアル店舗はメディアになる。これを「リテールメディア」というのだが、多くの大手小売店は「リテールメディア」を”新たな収益源としての広告メディア”だと解釈しているようで、だからダメになってしまうのではないかと、僕は考えてしまう。現在はイオンが躍起になってリテールメディアを進めているようだけれど、ひどくつまらない店舗デザインを抜本的に改革しない限り、イオンがAmazonに対抗できるのは不可能に近いだろう。