『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』橘玲 ★★

橘玲の『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』を読んでみた。

やはり橘玲の書籍は面白いと思った。本書のメッセージはシンプルで「好きなことで生きろ」である。このメッセージ自体は、多くの自己啓発書で見受けられるものだ。だが、本書は様々な学問の視点から、この世界を生き延びる方法が解説されている。それに、橘玲は元々経済小説を書いていた人なので、文章表現も豊かだ。だから読んでいるだけで頭が良くなった気分になれる。

特に、本書で言及されていた「貨幣空間」「愛情空間」「友情空間」の考え方がおもしろかった。

  • 貨幣空間:お金を媒介にどこまでも人間関係が広がる世界
  • 愛情空間:家族や恋人によって形成される世界
  • 友情空間:友達によって形成される世界

昔は、PTAや自治会や会社の同期会のような「他人以上友達未満」の中間共同体が存在していた。しかし現在は貨幣空間が充実しているため、PTAのような面倒くさい仕事はお金で解決できるようになっている。そのために、日々の生活で必ずしも友情空間は必要なく、貨幣空間によってもたらされた弱い絆と、血で結ばれた愛情空間の2つがあれば、十分に生活していける。著者によれば、「友情空間が無くなった」という現実を受け入れられずにテロを起こしてしまうのが『21世紀少年』ということらしい。

また、進化心理学の観点で言えば、僕たちの身体はあくまでも種を保存するために設計されているのであって、幸せに生きるために設計されているわけではないとのこと。だから「子どもを作らない=それでも不幸じゃない」が成立する。

そしてインターネットによって世界中の人々にアクセスできるようになった今、貨幣空間において重要なのは「お金の多寡」ではなく「評判」になっている。リナックスやWordPressなどのオープンソースプロジェクトは、そのプロジェクト内の評判を得るために、スーパーハッカーが日々コードを書いていたと言う。それと同じようなことが、様々な業界で起こる。

そこで著者は「この残酷な世界で生き延びる方法は、金銭的な報酬を得ることではなく、好きなことをやって皆んなから評価してもらうこと」だと結論づけた。そしてグローバルな能力主義の世界では、マックジョブが嫌なのであれば、好きなことを仕事にするしかない。そのために必要なのは、好きなことをやって得られる評価を収入に繋げるちょっとした工夫である。あいにく、現代は無料または格安で利用できるツールが山のようにあり、それを組み合わせることでビジネスモデルを設計できるのだ。