旧暦二〇二三年七月十六日(2023-0831)

太陽を楽しむ時間

僕が横浜の黄金町に住むようになってから、現在、最重要なタスクになりつつあるのが、夕焼けを無料で楽しめるスポットを探すことである。

まず間違いなく、みなとみらいで最も美しい夕焼けを楽しめるのは、ランドマークタワーの展望台だろう。何せ、みなとみらいで最も高い建物なのだから、ここから見る夕焼けは美しいに決まってるし、何なら夜景もセットで楽しめる。

ただしランドマークタワーの展望台だと、1回夕日を見るたびに1,000円払わなければならない。人類の宝である夕日を楽しむのに、1,000円は高い。いや、実際のところはそこまで高くないが、これを毎日やるとすると1ヶ月に30,000円の出費となるので、さすがに却下である。

ということで、時間があるときに夕日を楽しめるスポットを探しているわけだが、現在、僕の中で落ち着いているのが野毛山公園だ。山ということもあって、みなとみらいエリアの中でも標高が高く、比較的綺麗な夕日が見られる。ただし、野毛山公演は良くも悪くも自然が豊富であるため、木々で空が隠れてしまう。だから、みなとみらいで夕日を無料で楽しむには、本当に隠れスポット的な場所を探し当てる必要がある。

一方、朝日に関しては、簡単に楽しめる。なぜなら横浜は東側に海が広がっているから。懸念点は、僕の拠点から港までそれなりに距離があることで、5時から始まる日の出を最大限楽しむために、30分前には港に到着しなければならないことを考えると、4時前には起床する必要がある。

それにしても、なぜ僕がここまで太陽を見ることを重視するのか。もっともな理由を考えてみた結果、「太陽を見る時間を”自分と向き合う時間”として活用しているから」という結論に至った。僕は朝焼けや夕焼けを楽しむ際に、スマートフォンをほとんどイジらない。Lo-Fiを聴くか、僕が大好きなアニメである『ARIA』の楽曲を聴きながら、太陽と空を楽しむ。この際、僕は頭の中で色々なことを考える。ときには面白いアイデアを思いつくこともあるし、もっと長期的な視点で立たないとな、と思うこともある。いずれにせよ、これらの思考は自分と向き合うことで初めてできることで、要するに僕は太陽を見ることでマインドフルネスを実施しているわけだ。

アニサマは最高のエンタメイベント

この2週間で最も僕が盛り上がったのが『アニサマ2023』だ。Animelo Summer Live(通称:アニサマ)は、世界最大のアニソンフェスで、毎年夏、さいたまスーパーアリーナで3日間にわたって開催される。1日あたり約5時間が3日間続くので中々タフだ。

僕は去年から『アニサマ』に参加するようになり、今年は初めて3日間全通し、そして初めての声出しアリの『アニサマ』だった。

『アニサマ』の魅力は、いくつかある。まず、実に多くのアーティストが参加する点だ。『アニサマ』で登場する楽曲を全て把握している人は、まずいないだろう。アニソンという括りの中で、本当に様々な楽曲が流れる。『鬼滅の刃』や『ONE PIECE』程度の知識だけではまずノーチャンスで、ラノベ原作のアニメ、きらら系、SFロボット系、特撮など、ありとあらゆる作品に触れていなければ対応できない。だが、一般人では決して盛り上がらないであろう曲を、さいたまスーパーアリーナが震えるぐらいに盛り上がるのが『アニサマ』の面白いところである。例えば今回だったら『ワガママMIRROR HEART』や『ヒカリイロの歌』なんかは、一般的なアニメオタクだとあまり知られていない曲かもしれない。でも『アニサマ』だと、最高に盛り上がるのである。

そして何といっても、毎年登場するシークレットゲストが本当にヤバい点が最大の魅力だ。『アニサマ2023』に関しては、なんとTM NETWORKが登場した。『Get Wild』のイントロで小室哲哉がシンセを響かせまくっている時は、最高に震えた。

松本梨香のポケモン楽曲では僕の隣にいた人が椅子を蹴っ飛ばすほどに盛り上がり(のちに退場)、『リコリコ』の主題歌である『ALIVE』の時は改造ペンライトが出没するなど(のちに退場)、その治安の悪さも最高である。少なくとも、他のライブだったらまず間違いなくマナー違反であることを、皆んなでやってしまうのが『アニサマ』だ。

それにしても『アニサマ』は本当に素晴らしいイベントだと思う。ここまでのサプライズ性を大規模なイベントで実施しているのは、ほかにないのではないだろうか。普通に考えて、TM NETWORKを登場することを事前に伝えた方が、間違いなくチケットを売り捌けるはずだ。でもそれをやらないのは『アニサマ』がサプライズ性を重視しているからだと思う。『アニサマ』の盛り上がり方に関しては、本当に実際に参加しなければわからない。フェスというよりクラブみたいな盛り上がり方をしている。だからこそ治安が悪くなりがちなのだが、それも含めて一体感があると言える。

幻想とのバランスポイント

僕のここ最近の研究テーマは「アニメは人を幸せにするのか?」というものだ。ひいては、SNSを始めとする”副作用のない麻薬”が、はたして本当に人を幸せにするのか。はたしてアニメは、僕たちをより良いライフスタイルに導いてくれるのかをよく考える。

理想的には、これらの”副作用のない麻薬”から完全に距離を置くのがいい。けれど、それはできない。少なくとも僕は、プライベートに関してはSNSから脱却しているけれど、仕事の都合でどうしてもSNSを使わなければならない場面がある。

それに何よりも、僕はアニメが大好きで、日本式アニメ文化特有の”ダメな感じ”が楽しいのである。何が”ダメな感じ”なのかと言うと、日本のアニメ及びアイドル及びポップカルチャーが、明らかに逃避的なコンテンツになっていることだ。でも、それが楽しい。一例を挙げるなら、小学生しか登場しない萌えアニメを見るのが、色々な意味で楽しいのである。

ということで、少なくとも20代の間、僕はアニメという名の逃避的な幻想空間に触れ続けるのは間違いない。

そしてアニメでなくとも、推し文化からSNSまで、”副作用のない麻薬”は、誰しもが付き合っていかなければならないものだろう。

“副作用のない麻薬”とは、一言で言えば報酬系を煽るコンテンツのことを指す。つまりドーパミンを過度に煽るコンテンツだ。この”副作用のない麻薬”の最大の特徴は、ドーパミンを煽るだけで、身体的な副作用がほとんどない点である。ここが、タバコや酒とは異なる。タバコや酒は身体的な害が一定数あるが、SNSやアニメには、身体的な副作用がほとんどない。

だが、この”副作用のない麻薬”は、麻薬であるからして依存性がある。つまり、僕たちの時間を奪うのである。正直言って、”副作用のない麻薬”を摂取し続けるだけで、あっという間に人生が終わってしまうと思う。それは実に素晴らしいことだ。なぜなら”副作用のない麻薬”なのだから、当然のことながら副作用なく、死ぬまで幸せを感じることができるからである。

もちろん、このような幸せを否定する気はないが、あいにく、僕にはやりたいことがいっぱいあるので、”副作用のない麻薬”に時間を奪われ続けるわけにはいかない。でも、”副作用のない麻薬”から完全に距離を置くのは難しい。だから、”副作用のない麻薬”という名の”幻想”との、バランスポイントを探さなくてはならない。それが、最近の僕の課題である。

直近だと、僕は『アニサマ2023』に参加する中で、女性声優兼歌手の大橋彩香と小倉唯にハマった。2人とも声優ではあるものの、それ以上に歌とダンスのパフォーマンスが強く、そして何と言っても可愛い。僕は『アニサマ2023』が終了してからの週明け、ライターの仕事に取り掛かろうとしたのだが、頭の中が大橋彩香と小倉唯でいっぱいになってしまって、全く集中できなかった。そんな状態が、このレポートを書いている現在まで続いている。僕の頭の中は大橋彩香と小倉唯(とちょっとだけオーイシマサヨシ)という名の”副作用のない麻薬”に支配されてしまっていて、仕事に全く集中できない脳になっていたのだ。これはつまり、自分自身で自分の脳をコントロールできなかったということである。

「まあ別に仕事なんてどうでもいいか」と言われればそれまでだが、とはいえ、自分をコントロールできないのはマズい。やはり、”副作用のない麻薬”は非常に強力であることを改めて思い知らされたエピソードだった。

それにしても、これは非常に大きな問題だと感じる。

きっと、これからの社会は、多くの人が職を失うことになるだろう。……言い方が悪かった。多くの人が働かなくても生きていけるようになるだろう。

では、働かなくなった人たちは一体どうするのだろうか。シリコンバレーを牛耳るピーター・ティールが「働く必要のなくなった99%の人には、”副作用のない麻薬”を与え続ければいい」と考えていることは実に有名だ。そして、このままいくと、本当にそうなると思う。

僕は現在フリーランスだからわかるが、こうして自由に働きながら、”副作用のない麻薬”に惑わされないようにするのは非常に難しい。なぜ多くの人がフリーランス的な生活が向いていないかと言われれば、”副作用のない麻薬”が発する強烈な誘惑に対抗できないからだと僕は考える。

今は、多くの人が学校や企業に所属しているからなんとかなっている。だが自動化が進み、働く必要がなくなってしまうと、いよいよとんでもないことになりそうである。現在、テクノロジーに精通している人は、このディストピア的な未来に危機感を抱いている。

“副作用のない麻薬”とのバランスポイントを考える上で、まず大前提となるのが、これまで以上に”副作用のない麻薬”から距離を置くこと。それから、自分のやりたいことを無限大に持っておくことだ。理想を言えば、”副作用のない麻薬”から完全に距離を置いたほうがいいのだろうが、僕みたいに”幻想”が大好きな人もいる。そんな中、僕が行き着いた結論は、”幻想”に依存している人を”現実”に引き戻すために”幻想”を使うことである。だから僕は、基本的には”現実”を楽しみつつ、たまに”幻想”に潜り、いずれは素晴らしい”幻想”を作れるようになりたいと思う。だが想像以上に”幻想”は強力なので、これまで以上に”現実”を大切にしなければならず、つまりは”自然”を大切にするということで、つまりは”太陽”を大切にするということで、つまりは”愛”を大切にするということである。

はたして、これが上手くいくのか。その答え合わせは、2030年ごろになると思う。